政治思想の違いを乗り越え草の根でつながる
ファシズムに反対し、民主主義を守ろうと呼びかける「No Kings」の行動がアメリカ国内外で拡散していることを受け、アンフィルターでは、ジョアン・ベイリーさん、リッチ・ベイリーさん、マット・ノイズさんと引き続き、各地域における運動や日本政治との関連性について聞いた。



左からリッチ・ベイリー、ジョアン・ベイリー、マット・ノイズ
アンフィルター ICE(移民税関執行局)や国境警備隊による暴力的な取締りについて、みなさんが住む地域ではどんな声が聞かれますか。
ジョアン 選挙活動の一環で、地域を一軒ずつドアを叩いてまわっていますが、「もう二度と共和党には投票しない。絶対にありえない」と言っていた人たちに会いました。
これは意外な反応でした。その多くが80代で、これまでの人生で政治的思想はかなり固定している人たちです。配管工として働いていた75歳の退職者のような人も見かけます。抗議活動に参加している人の中には、支持政党の有無にかかわらず、共和党には投票しないという人もいると思います。
私が住む地域の田舎道などでは、大きく古い農耕用ワゴンが「彼らの嘘ではなく、自分の目を信じろ」と書いた大きな看板を掲げて、通りがかったりします。地方の人たちがこんなことをするのは、実に印象的です。
私はウィスコンシン州に住んでいますが、この州は、ミネソタ州と似たような文化があります。政治や宗教の話題は避けることが多く、話題にするとしても、皆とても慎重に話します。政治や宗教の話をしたら、すぐに料理のレシピや気候や地元のフットボールチームのパッカーズの話を振るよう気を遣います。しかし最近は、「政治の話を避けている場合ではない。今こそ政治の話をすべきとき。これは道徳の問題だから、立場をはっきりさせるべきだ」と考えるようになっています。私たちには子どもはいませんが、姪や甥、ひいてはその子どもたちに、叔父と叔母がどのような立場をとっていたかを知ってほしいです。
「道徳の問題」とは何を指しているのでしょうか。
ジョアン これは民主党か共和党かという問題ではありません。政治の話でもありません。善悪の問題です。ICEや国境警備隊の暴挙は、根本的に間違っているという話です。皆、この国が法治国家だということや、法律に従うべきであるということ、人道的に接するということについても、「いまのやり方は絶対に許されない」と感じていると思います。
トランプ政権は、法の遵守や人道的な扱いについてではなく、自分たちが正しいと主張するために、議論をねじ曲げて移民問題にすり替えて反論しています。これは典型的な政治論法です。論点を転換して、相手を攻撃する。しかしそれを否定し、「私たちが話しているのは道徳と人間性についてだ」と質せば、その手は必ずしも通用しません。
「抵抗しなければ、傷つくこともなく、新たな問題も起こらない」といったコメントもありました。だから「抵抗するな」ということです。でもこう言う人たちは暴力的ではありません。レニー・グッドさんのことを考えてみてください。彼女は何もせずただ出来事を撮影していただけです。そしてアレックス・プレッティさんは、誰かを助けようとしていただけです。
リチャード ICEにとって、この問題に対する唯一の解決策は、残念ながら暴力しかありません。連行したり逮捕したり、銃を発砲したり、催涙ガスやペッパースプレーを使ったりすることです。ICEの立場からすれば、抗議者たちが自分たちの権威を尊重していないと見えるのです。
アメリカには言論の自由や抗議する権利があります。だけれども、抗議しただけで突然、催涙ガスやペッパースプレーを浴びせられるなんて……。
恐怖や危険を感じながらも、市民は抗議活動に参加しています。
ジョアン 私たちの地域では、ミネソタ州ほど危険な状況にはなっていません。例えば、デモをしていたある日、男性がひとり大きなトランプの旗を持って現れ、それを振り回していました。さらに3、4人が後から加わり、そのうちの一人が道路を渡って私たちの側にやってきました。
もちろん心配しました。でもみんな対処方法を学んでいるし、全米の各地では団体が合法に行動しているか警備するための訓練を行っています。
道向かいに立っていた男性がポケットからスマホを取り出したとき、最悪の事態を想定してそれに備えました。ウィスコンシン州では銃の携帯が許可されているので、一瞬でひどく緊張したのを覚えています。
すごく怖いし嫌です。抗議活動や選挙運動のための自宅訪問なんて、本当は大嫌いで一番やりたくないタイプの人間なんです。普段なら絶対にしない。でも現状は、そうしないわけにはいかないんです。
自分の良心に背かずに生きていくためには、こうした行動をとらなければなりません。そう考えたら、寒さの中でも、1時間くらいアメリカ国旗を掲げて立っていることだってできるんです。そして、道路の向こう側で、アメリカ国旗ではない旗を掲げている男性を見ても動揺しないでいられる。彼にだって言論の自由があり、私たちと同じようにそこにいる権利があるわけです。私たちはどちらも納税者であり、有権者であり、対等な立場なのです。
私は、この男性の旗が象徴する全てに断固として反対ですが、彼にだって言論の自由があります。もし私がこの男性の主義主張を知らずにスーパーで出くわして、彼が買った物を落としてしまったとしたら、私はそれを拾ってあげると思います。その人だってそうしてくれるはず。
この地域のように特に小さな町では、誰かと会えば言葉を交わすのが日常でそれが文化です。相手のことを何も知らなくても、たまたま同じ場所に居合わせたからには、親しみやすさから軽い会話を交わすのが習慣になっているのです。
それなのに、トランプ政権はそういった地域でも私たちを分断している。まったくばかげています。
マット デモの現場において、警察の姿がほとんど見られないのは意外です。対立を避けようとしているんだと思います。警察がいないと現場はずっと穏やかですが、もし機動隊が現れたとしたら緊張は高まるだけです。これまで、デモでICEの姿を見たことはありません。
日常的に取締りが強行される状況は移民の家族にとっては恐ろしいもので、だれもが外出を控えています。スーパーの多くは宅配サービスを提供しているので、皆、配達で済ませているようです。
こうした中では、みんな適切な医療を受けたり、病院やその他必要なサービスを利用できているのか心配になります。やはりストレスは大きく、蓄積していくと思います。
多くの移民は恐怖と不安でいっぱいですが、同時に多くの支援活動も行われています。私の姉は最近、法的な支援をする「コロラド移民の権利協会(Colorado Immigrants Rights Coalition)」の研修を受けました。ICEによる家宅捜索などがあったときに、当事者が電話で支援を求めることができる団体です。姉のように研修を受けたメンバーが、電話相談を受け、支援者へつなぎ現場へ駆けつけます。姉は、家族が強制送還された現場から連絡を受けた際、情報を収集し、状況を把握して記録するために、当事者への聞き取りを行うのですが、こうした活動のために新設された団体などでも広く研修が行われているそうです。

みなさんが行っている草の根の活動について具体的に教えてください。
リッチ 私はこの「インディビジブル(Indivisible)」という団体を仲間と共同で立ち上げました。4月7日に私が住む地方でも選挙が行われますが、重要な争点の一つがウィスコンシン州最高裁判所の判事選です。これは極めて重要なので、そのためにボランティア活動を行う予定です。
11月には連邦下院議員選挙もあります。つまり、アメリカの政治において、トランプ大統領が弾劾される可能性があるということです。
今の議会ではそれはありえません。しかし、秋の選挙で議会の構成を変えることができれば、その可能性が生まれます。これは状況を変える唯一の方法だと思っています。
ジョアン 私たちは、抗議活動や戸別訪問を企画し多くの人に参加してもらうことだけでなく、近所の人たちとつながり、会話を始め、再び絆を深めることが重要だと思っています。私たちが分断されてしまうのは、お互いにつながりをつくってこなかったからです。例えば、地域で葬儀があれば料理を持って行ったり、単に人と交流したり、支援を必要としている人に手を差し伸べたりするということです。
私は周囲の人に、選挙の立候補者や、市議会や教育委員会の新任者など、身近な政治にも注目するよう勧めています。こうしたことは全米レベルでは全く報道されませんが、実は私たち皆の日常生活に直接影響するものなのです。
アメリカは本当に怠惰になり、内向きで、分断された社会になってしまったと感じています。これは個人レベルの話であり、今や私たちはお互いを恐れるようになってしまいました。私は地域の人を怖がっているわけではありませんが、地域社会をうまくまとめて運営するには努力が必要で、決して簡単なことではありません。
マット ここ数年、私が住む地域では「一品持ち寄り(ポットラック)パーティー」のような夕食会が増えています。その目的は、友人やコミュニティとのつながりを通じて人を集め、多くの人と出会い、情報を共有することです。関わっているプロジェクトがそれぞれ違う人たちが集まり、一緒に食事をしながら交流するのですが、関係性と信頼を築くことが重要になっています。
これは単に「どうすれば自分のイベントに人を集められるか」といった実利的だけを目的としているのではなく、知らない人同士が出会い、必要な関係を築くことで、支え合うようになるためです。
これは非常にフラットで、草の根レベルの組織づくりであるため、2011年に「ウォール街を占拠せよ」をスローガンとし「99%と1%」などの概念を広げたオキュパイ運動の遺産と言えると思います。他の団体に所属しながら、地域社会でも人と繋がり集まることができるからです。
従来の団体は厳格に組織されているように見えますが、人は本当に”組織”されているのでしょうかーー。一人ひとりが自分の意見を形にでき、存在や意見が尊重されて、民主的な活動が促されているか、ということです。
日本でも2011年3月の福島第一原発事故の後、初めてデモに参加した人がいたことを思い出してください。1986年4月にチェルノブイリ原発事故後に日本ではじめて原発反対運動が起こりましたが、そのときと同じように多くの人が集まり、不安な気持ちを共有しました。
福島原発での反原発運動は、東京の高円寺で店舗を経営する松本哉さんが、「(日本では)『花見経済』という社会運動が必要だ」と提唱しました。花見という共通目的のもとに多くの人が集まって行動することに象徴される、まさにその意識ということです。
ミネアポリスで広がる、ICEや国境警備隊の暴力への監視や市民による相互支援は、原動力は主にコミュニティ・オーガナイジングを目的とする団体によるものではなく、互いに語り合うこと、つまり住民が自らの対話と創意工夫を通じて相互支援のネットワークを築いていったことが原動力となっていると、雑誌のインタビューでベテラン活動家が解説していました。これは、いままでのオーガナイジングとは異なる形式の組織化です。
リッチ ジョアンと私は日本に住んでいましたが、アメリカに帰国したらもっと社会活動に積極的に関わろうと話していました。正直なところ、政治家になるつもりはありませんでしたが、私たちが住む郡の民主党が主催するピクニックに参加したことがきっかけで、地方選挙に出馬することになったんです。
トランプ政権が進める移民の取締りを機に、市民ネットワーク「インディビジブル」の会合を開いたのですが、その翌日、アレックス・プリッティが銃撃されました。翌年まで待てないとして私たちは即、次の会議を持ち、ソーシャルメディアのアカウントを作成して、すぐに発信しはじめたんです。
もっと大規模な抗議活動もあるけれど、小さな町であっても定期的に抗議活動が行われているところは多かったのに、人口1万人の私たちの町ではなにもなかったんです。ここはウィスコンシン州の首都マディソンからすごく近い地域なのに、抗議活動がないなんて、ちょっと驚きました。それがきっかけで毎週金曜日に行動をするようになりました。
いま何がいちばん重要だと感じますか。
ジョアン 私がいちばん素晴らしいと思うのは、皆が集まることで、自分は孤独ではないんだ、と気づけることです。自分と同じ気持ちを抱いている人たちに囲まれていると、そう実感できるんです。それが連帯というものですよね。 まさに連帯感そのものだと思います。
もう一つ強く感じたのは、これまではまるで沈黙を強いられているような気分だったということです。もう本当に「たくさんだ」と思いました。私たちは、自分らしくあることを恐れてはいけない。政治の世界、特にトランプやMAGA(「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」)の風潮の中では、自分のありのままの姿や政治的立場や信念について、率直に語ることができないと痛感します。そういうことを好まない人たちがいるんだと思います。
マット 人々が政治や既存の政党に対して抱く嫌悪感は、今後も変わらないでしょう。私たちはいつも次の民主党の選挙運動へと誘導されてしまうけれど、それだけだと人は失望し、やる気を失います。しかし、ICEや国境警備隊からの暴力に抵抗するようないまの運動に関しては、そうはならないでしょう。この運動は、少しずつ成熟していくように思います。そう期待したいです。
リッチ・ベイリー 中国、台湾についてのビジネス報告書などの編集者。ウィスコンシン州を拠点とし、地域コミュニティで政治活動をする。英国、フィジー、カザフスタン、日本での在住経験がある。
ジョアン・ベイリー ウィスコンシン州を拠点とするライター。料理や農業、ファーマーズ・マーケット、旅行などを中心に、Gastro Obscura, The Japan Times, Modern Farmer, Civil Eats, Smithsonian Magazine, Permaculture Magazine に記事を執筆する。日本には14年在住した。
マット・ノイズ 民主的な運動についての教育者でありオルガナイザー。日本に15年在住し、現在はコロラド州コロラドスプリングズを拠点に農業協同組合の活動をする。
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